ミロ+ヘラクレス(SEIYA+APH) | 方舟機関

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ミロ+ヘラクレス(SEIYA+APH)

<!−−クロスオーバー−−>



『鉄の時代の子供達』

その人からはいつも大地の匂いがした。

聖闘士としての務めに、意義だって誇りだって見出しているし、生活の指針は常に女神にある。
しかし、ミロが平時過ごすのは自らが守護すべき天蠍宮ではない。それはアテネ市内だったり、オリンピア史跡だったり、時には修行地・ミロス島に出戻ることもある。
ミロはアテネの大学で歴史学を学ぶ学生である。
国家機関や研究機関とも提携しているとか言う講座は、フィールドワークを中心にしていて、実際に遺跡の発掘に携わることが出来る。ともすれば歴史を塗り替える瞬間に直面できるのだ。
それはミロにとって大きな喜びである。
こう言うのもなんだが、ミロはよくあるギリシャ人らしいギリシャ人……ここではヘレネスと言った方がいいか、ギリシャのかつての(何千年も前の!)栄光と(いい加減に黴臭くなってきた)大いなる歴史を至上の文化だと思い込んでいる、懐古主義的愛国心溢れる若者だ。
遺物の一つ一つからでも神話時代の叡智が見て取れるというもの。このギリシアに神々の住まっていたことを確信させてくれる。
幸い肉体労働は得意だし(何せ天下の黄金聖闘士だ)、細かな作業だって苦手じゃない。こうして土を穿り返すのだって悪くない。頬は緩みっぱなしだ。汗を拭ったその瞬間気付く。日向の香りが鼻をくすぐった。
「ミロ……」
背後から声をかけられる。
彼はいつも、静かにゆっくりとしゃべる、なのに朗々としているから不思議だ。彼の声がこの名前を呼ぶのが、神への祈言にすら聞こえて頭を振る。
カミュなんかにバレたら「背中をとられるなど聖闘士失格」とでも言われそうなものだが、仕方ないと思う。だって、彼はいつでもそこにいるように感じられて、なのにいなくて、かと思えばいつの間にやら現れるのだ。その香りだけを連れて。
思いっきり口角を持ち上げ、首を上に反らす。
「久しぶり、ヘラクレス」
「ん」
彼の名前はヘラクレスという。素性は知らない。一応は関係者以外立ち入り禁止になっているのはずの現場に堂々と入り込めるのは、何やら彼が発掘チームのスポンサーだから、らしい。
暇さえあれば「手伝いに来た」とボンヤリした様子でやって来て、そのときの格好がTシャツやらスーツやら、しまいには軍服だったりして、彼の正体はますます不明になる。
「工程は順調か?」
ミロが左に避けて開けた脇に座る。膝を抱えて地面を見つめる姿が妙に似合うのだ。
「教授に聞いてくれ。まぁ、後1週間はここで過ごすことになりそうだけど」
「楽しそうだな」
わざと辟易とした顔をしても、ふわり、と包まれておしまいだ。
「……ああ。やはり凄いよ、この国は、」
先人の叡智に満ち溢れている。
「そう言ってもらえると、嬉しい」
「何でお前が喜ぶ」
「何でも。」
一見無表情なようにも見える厚顔も、よくよく見れば薄く微笑んでいる。アルカイックスマイルとでも言うのだろうか、ミロはヘラクレスのこの笑顔に弱い。

この人からはいつも大地の匂いがする。実り豊かな大地の匂いが。
目を細める、それが何を見ているのかミロには知り及ばない。
ただ、この人を前にしていると、自分がとてもちっぽけな存在のように思えてくるのだ。そして、隣のヘラクレスがとても遠い存在のようにも。

何となく気恥ずかしくなって、鼻の頭を掻いて。立ち上がる。
「手伝え、少し難しい箇所があるんだ」
「知ってる……そのつもりで来た」
遺跡(となる予定の発掘現場)の中心部に向かう途で、学生や作業員、皆がヘラクレスに「よぉ」「ひさしぶりだな」と声をかけ、ヘラクレスも小さく頷き返す。
当然のようにmy鑿を取り出すヘラクレスを咎める者は誰一人としていない。手伝う、と言う言葉に違わず、ヘラクレスの手並みは手早く、思慮深く、そして誰よりも熟練している。最近やっと調子を掴めてきたミロに比べれば雲泥の差だ。
そのながらで、まるでその目で見てきたかのように生き生きとしたギリシアの歴史を語ってくれるのだ。中には歴史書なんかにも載っていないような庶民の風俗まであって、彼の知識の深さは無限にも思われる。
そういえば、神統記、イリアス・オデュッセイアを虚で唱え始めたときには驚かされた。無論、アテナに仕える聖闘士の基礎教養として内容自体は頭に入っているが、一字一句違えず謳うなんてミロにはできない。
ミロは、ヘラクレスの鮮やかな手並みに関心もするし、語り口に魅了される。
しかし。
しかし、よくよく見ていると、分かる。
手が勝手に動いて、口が勝手に動いているだけなのだ。綺麗に土を砕くその意識はここには無い様に見受けられる。
その証拠に、彼はこちらが話しかけても返事は胡乱で、強すぎる日差しにも昼食を摂っていないことにも頓着しない。頬に冷えたペッドボトルを当てるまで、夢中といった様子で手を止めない。
「っ……どうした?」
めったに見れない驚いた表情に、してやったりと笑って、それから怒った顔を作る。
「いい加減に休憩しろ。熱中症で倒れるぞ」
「そうか?」
デカイ図体に似合わない小首を傾げるという可愛らしい所作が、言外に「まだ続けたい」と零す。 嘆息して、ヘラクレスの頭にヘルメットを被せてやって、その手をとる。がっしりとした身体を引き上げるのも、ミロには容易い。

「にゃあ」、
猫が一匹、葉が青く茂る月桂樹の木の下を陣取っていた。
「……猫」
「だな」
下がった瞼が持ち上がり、ミロの手を振り払ってゆるゆると駈けていく。ヘラクレスは、猫が好きだ。不思議なことに、猫もヘラクレスを好くらしく、ヘラクレスがぼーっと飯を食べているだけで、数匹新たに集まってくる。
転がる小枝を拾って地面に書き書き、ゼノンのパラドクスを野良猫共に説明する姿はいつになく熱心で、滑稽だ。
それを横目で見ながらギロピタを齧る。こういうときは目を輝かせて活き活きしているのに。何故細心の注意を払うべき作業ではぼんやりとしているのだろう。
ザジキのスパイスが効きすぎていて、噎せてしまった。通り掛かった店で買ったのだが、もう二度と立ち寄らないことを心に決めた。

この人からはいつも大地の匂いがする。実り豊かな恵みの大地、ギリシアの土の香りが。
男の姿をしてはいるが、或いは豊穣の女神とはこんな姿をしているのかもしれない、とぼんやり思う。
日向と情交の匂いがする。それがミロのヘラクレスへの第一印象であり、それが覆されたことは未だ無い。

群がっていた猫共も、いつの間にやら退散したらしく、今は咽喉を鳴らして水を飲んでいた。飲み溢した水が口元から顎へと伝う。彼の行為全ては情事の後のような甘ったるい倦怠感を伴う。
「ヘラクレスは、何で考古学を勉強しようと思ったんだ?」
視線を僅かにこちらに寄越し、眉を顰める。それは顔を顰める動作と言うよりも、痛みに耐える表情に似ていた。飲み口を離し、口元を拭う。ヘラクレスの首を伝う汗はきっと、暑さの所為じゃない。
「はは、が。」
「お母さん?」
「……そう、母」
小さく頷いて、目を閉じる。
「母との思い出は、もう、ここにしか見当たらないから」
地面を見ているのか、大空を見ているのか、否、過去を見ているのだと、漸く合点が行った。
「それを思い出したくて、まだここにいるんだ……と、思う」
「ヘラクレスのお母さんも考古学者だったのか?」
「……そんなようなものだ」
「だからあんなにギリシア史に詳しい訳だ。じゃ、ヘシオドスとかホメロスとかを歌うのも?」
「あれは母がいつも寝物語に聞かせてくれたんだ」
何て情操教育に悪いんだ(確かにヘレネスにとっては最上の教育かもしれないが、)とミロは呆け、少しだけ、親の顔が見てみたい、と思ってしまった。彼の言い方からするともう叶わないのだろうが。

「母を忘れようとしている薄情な自分が怖いだけなのかもしれない、」

「我が……母なるギリシアを」
その呟きを、ミロは聞き取れなかった。ふるり、小さく首を振り、ヘラクレスはいかにも重そうに腰を上げた。
隣の木陰には、やはりどうしようもないほど日向の―彼の―香りが残っていて、先を行ったはずが消えてしまった、彼を追うこともできなかった。

その人からはいつも、ギリシアの匂いがした。
その人がギリシャそのものだと知るのは、もう少し後のこと。
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