十ヨハ(GX) | 方舟機関

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十ヨハ(GX)

耳に障る電子音。それを聞くのは久しぶりな気もした。
サブディスプレイを見れば、案の定、オブライエンからの着信だ。
通話ボタンを押した十代が名乗るよりも先ず「十代か。オブライエンだ」と言う。
その慌ただしさに、事態が切迫していることを察し、口角を持ち上げた。
尤も、笑い飛ばすことはできなかったが。
「信じがたいことだが、」
ヨハンが自殺した!
正確を期すれば、「自殺を図ったが、未遂に終わった」。
「は?」
愕然に目を瞠る。問い返す。オブライエンが繰り返す。
今どきニュースにもならないありふれた事件だ。十代にとっても、対岸の火事のようなものだった。そして、
「ヨハンって、ヨハン・アンデルセン? あのヨハンが?」
当事者にも。思い出すのは、明朗の過ぎた笑みと快活の過ぎた物言いだ。
「……そうだ」
沈黙を選べないのが、オブライエンの欠点ではあるが、美点でもある。優しすぎるのだ。
「一命は取り留めたそうだ。不幸中の幸いだった」
何が幸いだ!
電話口に叫ぼうとして、止めた。オブライエンが怒鳴られる理由はないし、それよりも、十代が怒る理由もないことに気付いたからだ。
ヨハンの身に何が起こったとしても、十代には事もなく、心を痛めているふりをする方が馬鹿らしい。
何よりも、十代にはヨハンを唾棄するべき理由があった。
「そいつはよかった。で? 他に用件がないなら切るぞ、オブライエン」
息を呑む音が聞こえた。
「十代は……。ヨハンが心配じゃないのか?」
沈黙を選べないのは、オブライエンの美点ではあるが、欠点でもある。優しすぎるのだ。
「ああ」
「すまない、それだけだ。無茶はするなよ」
「わかってる。んじゃ、またな」
その心中を慮ってやれば、苦笑が漏れる。通話を切り、背後の気配に語りかけた。
「何が言いたかったんだと思う?」
「決まってる、」
十代の顎に触れ、顔を擡げさせ、瞳を覗き込み、言う。
「オブライエンはヨハンを心配しているんだよ。キミのこともね」
差し出された答えはとても咀嚼できそうにない。そもそも、十代の実感とは齟齬がある。
けれども、舌触りだけはよかったものだから、戯れに弄してみたくなった。
「ユベルも?」
十代の意地悪な問いにも、首肯してみせる、その有り様の何と健気なことか。
愛しさを覚え、目を細めた十代には、自覚がなかった。
「十代、ヨハンのところへ行こう」
「ユベルは優しいな。アイツなんかの心配ができるとか」
ユベルを口で褒めそやしながらも、ヨハンを鼻で笑う。
ユベルは泣きたくなった。
「優しいものか。悪魔が優しいというのなら、アイツは天使か何かだね。こう言ったんだ」
だって嬉しくないのだ。どうして十代の愛を喜べないのか。
「『十代を好きな誰かが傷付くのは見たくな「その話はやめろ!」
怒鳴られるのも、怒らせるのも、些ともユベルの望むところではない。それでも、
「『それでも好きだと思う気持ちは止められないから』!」
――『なら、みんなが幸せになれるように』。
きっとこれも我意なのだろう。



<!−−「最後の楽園 -Gods are in their heaven.-」の続きとして書いていたもの。続きません−−>
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