黒火(krbs) | 方舟機関

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黒火(krbs)

(日本人だと聞いていましたが)
目の前の相手を見つめる。
(ボクも人のことは言えないですけど、)生粋の日本人には珍しい赤錆めいた褐色の髪は、それだけで人目を引く。しかもそれが座してなお、人より頭一つ分は高いところにあるのだから、なお更に。長身に見劣りしない体格は、無造作に着崩した洋装が似合い、ますます日本人離れして見えるのだった。明らかに身の丈に合っていない卓と腰掛けに、律儀に、窮屈そうに収まっている姿は、ちょっと可笑しい。歳相応の可愛げと受け止めるべきかもしれない。萎縮している風でもないから育ちのよさとも思われる。
それにしても、こんなにも堂々と対面に座っている相手に気付かないというのは、慣れたこととはいえいつだって不可思議だ。すぅと息を吸い、心持ち大きめに声を出す。
「こんにちは」
「うわっ?!」
がたんと音を立て飛び上がり後ずさる、大袈裟な反応を見るのは随分と久しぶりだ。その様子に一瞥をくれてから、通りがかった給仕の裾を引き、注文を取り付ける。給仕にもまた驚いた顔をされるのだが、これもまた慣れたことだとすまし顔で済ませた。再び目の前の青少年に視線を戻せば、こちらを見つめては目を白黒させている。
「君は、何を飲みますか」



「火神大我くんですね」
「おう。あ、はい。っす」
状況をわからないながらに質問には急ぎ答える。やはりよく躾けられた子だという印象を受ける。だからこそ、本当に敬語ができないのだともわかった。
「黒子です。よろしくお願いします」



先日。
「黒子くん。前に、洋書を読むのに難儀するって言ってたわよね」
リコがふと思い付いた風に言った。のんべんだらりと互いの近況を報告し合っていた。話題は丁度、気に入りの小説のことで、会話としての筋は通っていた。通ってはいたが。輝く目と綻んだ口元はかつて見慣れたもので、ああ、何か目論見があるのだとわかり。
「ええ、まあ」
常の五倍はくたびれた顔をしたつもりだったのだが、全く伝わらなかったか、伝わったとて黙殺されたのか、弾む声がこう続けたのだった。
「書生を迎える気はない?」
「それはどういう?」
「伊月くんの研究室の先生のご友人――長らく欧米にいらしたそうで、つい先日帰国されたんですって――がご子息の教師を探しているらしいの」



黒子先生は教えるのがあまりうまくない、と、火神は思っている。
しかし、当の黒子は「ボクは君を、一人前の紳士にしてみせます」と意気込んでいる。そう言ったときの黒子は、常ならば瞳の凪いだ湖面に沈んで見えない感情を、見せていた。元より瞳がこぼれ落ちそうな、目を瞠って、黒目を引き絞った、ことが、やけに悲愴っぽく見えたから。
この人を支えてやりたいと思ったのだ。



「黒子せんせー、飯だぞ……です」
「火神くん」
睨め付けられた。理不尽だ。やはり、黒子が何を考えているのか、よくわからない。日本語のレッスン以外は丁寧な言葉遣いをしなくてもいいと言う。レッスン中にも、先生と呼ばれることを嫌がる。
けれども。火神の舌は先生という響きをいたく気に入ってしまったから、物分かりよく順うのが難しい。
今まで先生と呼べる人はいなかった。



「――火神くんは、」
本当に読書が好きなんですね。
あ、笑った。そう思った。いつもどおり、眉も口角も平らかに固まった鉄面皮と死んだ魚のような虚ろいだ眼差し――少なくとも火神にはそう見える――だのに、今、とても優しい顔をしているのだとわかって。
感心です、と続いた声は思いなしか甘くて。
何故だろうか。頬が熱い。



<!−−明治パロ。文学同人結社誠凛、作家先生黒子、書生火神−−>
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