笠黄(krbs) | 方舟機関

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笠黄(krbs)

「父さん、今日は母さんとデート行くんだよね」
箸を置き、カレンダーに目をやりながら尋ねる。今日の日付には『運命の出会いから15年』の字。女子の目から見ても、ちょっと重たいくらいに、父は記念日を気にする。サラダ記念日じゃないけど、母と共有した何もかも、些末事でさえも、まるで大事のように扱えてしまう。ロマンチストなのだ。中でも出会いの日と付き合い始めた日と入籍した日は特別らしく、二人の時間を持つことにしている。
「ああ」
「そう」
肯定が返ってくるとわかっているのに聞いたのは、確認のため。両親の不在の予定を確認したら、口元がにやけた。背中を向けているのにそのことを見止めたようで、父は素気なく言った。
「笠松のところには行くなよ」
こんなとき、父の声はいつだって――まるで悲鳴を上げているみたいに――鋭い。それを聞くと浮ついた気持ちも沈んでしまう。
「ごちそうさま」
物分かりのいい返事もしたくなくて、それ以上何か言われる前に私室に逃げた。言い訳がましく思う。
(笠松さんじゃなくて、黄瀬くんの家だもの)

一日を終えて、学校から歩いて5分の場所にある喫茶店で彼を待つ。窓の外に大きなバイクが停まったのを見て、私は会計を済ました。
店を出るなり差し出されたヘルメットを被って、その背中にへばりつく。
昔はスポーツマンだったって言うけれど、薄っぺらな体ではとても信じられない。触れている感触の歪さに、不安になる。しっかりと抱き止めておかないといなくなってしまうんじゃないかって。私よりもずっと長く付き合ってきた父なら、なおさらにそう思って、だからこそ、私が黄瀬くんと会うのを止めないんだろう。

黄瀬くんは、父と笠松さんの、高校時代のバスケ部の後輩だ。とにかく才能に恵まれた選手で、悔しくもあったけれど、いつしか、同じコートに仲間として立てることが誇りになっていた。笠松さんを追って同じ大学に入ったから、大学でも、結局後輩になった。その頃を懐かしむ父の声は甘く、笠松さんの名前を呼ぶときばかり、苦い。

笠松と書かれた表札のかかった扉に、黄瀬くんは勢いよく飛び込んだ。それは当然のことで、黄瀬くんは大学入学以来、もう10年以上この部屋に住んでいる。この人と一緒に。
「ただいま!幸男さん!」
声を弾ませて部屋の奥に突っ込んでいく黄瀬くんには、いかにも愛おしげに苦笑して、打って変わって、黄瀬くんが脱ぎ捨てた靴を揃える私には一瞥をくれる。
「……こんにちは」
ぺこりと頭を下げると、彼は口を引き結んだまま、一回だけ頷いた。
つっけんどんな態度だけれど、



笠松さんは、父に曰く『高校以来の大親友』だそうだ。バスケ部で三年間一緒に汗を流し涙を堪え、学部は違えど同じ大学に通い、青春を共にした、母とは別の特別で大事な人。
そうは言いつつも、父は笠松さんと仲違いしている。10年以上前に、大喧嘩をして、それ以来ずっと顔を合わせていないんだって。いい大人が大人気ない。でも、男にはどうしても譲れないときがある、らしい。あんな、身も心も冷えきったような顔をしてまで、どうして片意地を張るんだろう。



<!−−連載完結前に書いた未来捏造。森山×モブの娘視点。死んでる笠松さんと同棲してる黄瀬くんのはなし−−>
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