アークライト家(ZEXAL) | 方舟機関

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アークライト家(ZEXAL)

父から便りが届いたのは昭和二二年の暮れのことであった。

僕はといえば、一九年からずっと、父のご友人を頼り、信州に疎開していた。出立の日、父は僕に言って聞かせたのである。「こちらが静かになったら、迎えに行くよ」。二〇年の夏、陛下の玉音にて敗北が知らされた。その二月ほど後、父から便りがあった。「まだ君を迎えることは出来んから、待っていてくれたまへよ」と。以来、音沙汰はなかった。けれども、下宿代は滞ることなく払われていたそうだから、父も兄らも、大事なくやっていらっしゃるだろうと見当をつけた。きっと、お忙しいのだ。何せ父は偉いお医者さまであるから。そう自分を慰めた。
父のご友人を頼ったとはいうものの、あの、小さな山村の大きな屋敷に、その人はいらっしゃらなかった。というのも、ご友人の一家は大陸に渡っていらしたから、国元たる山村にはその老いた母君だけが残り、留守していたのである。つまり、僕は彼女の世話になり、彼女を世話していた次第だ。

父の迎えを待つうちに、その、ご一家が帰ってこられた。



眠られぬかと思ったが、煩っているうちに、机に伏してしまったようだ。
そして、呻き声に、目を覚ました。
痛い痛い痛い痛い痛い。
妙に高く、妙にすれておって、僕の覚えとは変わっていたが、トオマスの声であるとわかった。
そういえば、トオマスがどこに臥せっているか、正しくはどこに閉じ込められておるのか、聞かされていなかった。
部屋を出ようと、戸を引いたらば、目前にクリス兄さまがいた。
ついて来なさい。よいのですか。構わぬ。
言われた通り、兄の後ろについてゆく。クリスの手には行李があった。

トオマス兄さまは、庭の庵に居た。中から痛い痛いと聞こえる。
どおりで、昨日、クリスは庭から現れたのだ。
元々の格子戸の上に厚い板張りがされており、やはり後付けとわかる錠が掛けてある。
クリスは僕に、退がれ、戸の前に立つな、と言い、錠を外し、戸を引いた。
何にも起こりやしなかった。
ただ、痛い痛いという悲鳴が、先までより聞こえやすくなっただけである。
覗いてみても、思っていたような、つまりは脳病院のような、惨たらしい光景はなかった。
ただ、惨めな次兄の姿があるばかりであった。

トオマス。
クリスが呼びかけても、呻き、蹲って頭を抱えるトオマスには聞こえなかったろう。
今はそこにいろ。そう言い、僕に行李を寄越した。
黙らないか。言いながら、庵の中に入り、トオマスに近づいたかと思えば、にわかに脇腹から蹴り上げた。そうして仰向けになった体に乗り上げ、腕を抑えた。僕を向き、ミハエル、持っておいで。言うクリスの下で、トオマスは足を暴れさせる。行李のことを指図されたのだと気づき、僕も庵に入った。トオマスの足に当てられぬようにと、恐る恐る、歩を進めた。
クリス兄さまの横に行李を置く。
どうぞ。ありがとう、薬を打つから左腕を抑えてはくれまいか。はあ。



<!−−終戦後昭和パロ−−>
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